黒猫の見る夢 if 第20話


ラグナレクの接続が不可能となり、マリアンヌを失った皇帝は、コードを失ったV.V.と共に今だ皇帝として玉座に座っていた。
だが、目的を失い、その上秘密裏にではあるが、真実を知ったルルーシュとナナリーからの伝言だという事でC.C.が一言「理由がどうあれ、お前の犯した罪は変わらない。あの二人は一生お前を許さないし、お前の愛など気持ち悪いからいらないと言っていたぞ」という言葉に意気消沈し、その隙に黒の騎士団は完全に日本を制圧した。
各国もそれに倣い、各エリアで反乱が起き、次々自国を取り戻していった。
残されたエリアは10を切り、宰相を始めとしたブリタニアの高官たち、そして皇族たちは、マリアンヌの死の真相と皇帝による人体実験が火種となったブリタニア国内の内乱の鎮圧と、エリアの反乱への対応に追われ、侵略戦争をする余裕など完全になくなっていた。
シャルル皇帝を退位させ、新たな皇帝を据えるべきだという声が日増しに大きくなり、近いうちに穏健派のオデュッセウスか宰相シュナイゼルが皇帝となるだろうが、どちらがなったとしても、もう侵略戦争は起きないだろう。というのがゼロの予想だった。

おかげで日本は順調に復興をはじめ、日本に残ったブリタニア人にも国内への滞在を許可し、多少日本人と外国人という区別はあるが、それでも出来るだけ差別のない治世を行っていた。
たとえ過去にブリタニア人に虐げられていたとしても、同じ事をしてはいけない。
日本人とブリタニア人が共存出来る道を探りたい。
それは一時的にとはいえ新たな首相となった皇カグヤと、その補佐を行うゼロの願いだった。

そんな平穏が訪れているはずの日本の政庁では、連日至る所で険悪なやり取りが行われていた。


「うるさい!煩いぞ枢木スザク!私に纏わりつくな!!」

ルルーシュなら構わないが、お前は絶対お断りだ!
C.C.が不機嫌そうに靴を鳴らしながら歩くその斜め後ろに、スザクはぴったりとくっついてきた。足を速めても遅めてもその距離は変わる事はない。
ああ、鬱陶しい!こいつのこの無駄な騎士スキルどうにかならないのか!?

「僕に離れて欲しいなら、君のコードをくれないかな?」

日に何度も聞かされるその言葉にC.C.は舌打ちをした。
スザクにも全部話していると勘違いした咲世子が、ルルーシュが不老不死となった事についての相談をスザクにしてしまったのだ。そう、C.C.も不老不死で、すべてが終われば二人で姿を消す事も教えてしまった。咲世子としては、ジェレミアと共に、死に別れる時までルルーシュに仕えたいので説得中だが、スザクはどうするのか、どうすればルルーシュを頷かせられるかという相談だった。
幼馴染なら対応の仕方も心得ているのではないかという考えだったのだが、もちろんその話をスザクは知らなかったので、咲世子から詳細に聞き出し、今に至る。
ルルーシュと共に生きるにはC.C.からコードを奪う・・・いや、もらう必要がある。
それもルルーシュと年の差が開く前に。
ルルーシュなしで生きるつもりも、彼を残して死ぬつもりも今のスザクにはなかった。
生きるのも死ぬのも一緒だと決めているのだ。
どうやら死にかけていたルルーシュを献身的に看病したことで、たとえ猫の姿でも一緒にいることで得られた安らぎを、そして彼に感じた愛しさを忘れることも手放すこともできなくなったらしいその様子に、C.C.は不愉快だと言いたげに睨みつけた。
何せさんざん敵として対峙し、ゼロを否定し、その上出世のためにルルーシュを売り払った男だ。それを無かった事にして傍にいようなんて図々しい。
ルルーシュがどう思っていようとC.C.はスザクを許すつもりも、ルルーシュの傍にいさせるつもりもないのだ。

「やるわけないだろう。ルルーシュと共に生きるのは私だ」
「なんで?僕にくれれば君は死ねるじゃないか。願いはかなうだろ?僕はルルーシュがいれば永遠に生きてもいいから問題はないよ」

C.C.の願いは死ぬ事。それもどこからか聞いてきたらしいスザクは、その事も持ち出してくる。

「残念だが、私ははルルーシュが終わりを見つけてくれる時まで共に生きることにした。だから、お前になど渡すつもりはない」
「そんな事許さないよ。彼は僕の物だ」
「私の物だよ。すでに永劫を共に生きると誓った仲だ。それにコードを受け継ぐにはまずギアスを手に入れ、資格を得られるほど力を高める必要がある。私はもう誰にもギアスを与えるつもりはない」

ギアスを嫌悪しているスザクに、切り札だと言わんばかりにC.C.は口にした。
すると、やはりスザクは口を閉ざし、足をとめた。

「コードがあればギアスを与えられるんだよね?じゃあルルーシュにもらってこなきゃ。あ、ルルーシュは人にギアス与えるの初めてだよね?じゃあ、僕が最初で最後ってことになるのか」

そういうと、その顔に機嫌のよさそうな笑みを浮かべ、踵を返してスザクはゼロであるルルーシュが居る執務室へ向かって歩き出した

「待て枢木!ギアスは悪だと言っておきながら、なにあっさり欲しがってるんだ!」
「悪い事に使わなければいいんだよ」
「そういう問題ではない!」
「大丈夫、君を苦しみから解放するためだといえば、ルルーシュは承諾してくれるから安心して」
「ふざけるな!安心できるか!!」

ルルーシュがスザクにギアスを与えるとは思えないが、C.C.を救うためなら、スザクが共に生きてくれるならと考えを変えかねない。つまり、このままでは不老不死の組み合わせが<C.C.とルルーシュ> or <スザクとルルーシュ>と、確率が1/2になってしまう。冗談じゃないとC.C.は慌ててスザクの後を追った。



「つまり、スザクはC.C.を解放するため、自らの意志で不老不死の地獄に落ちると?」

ジェレミアと咲世子に、今後のナナリーとアーニャに関する相談をしていると、笑顔のスザクがノックもせず入ってきて、その後ろからC.C.が若干息を切らして入ってきた。
そしてスザクが真剣な表情で言った言葉に、ルルーシュは驚くことしか出来なかった。
何よりもギアスを恨んでいるはずのスザクが、自らギアスを求めるなど、イレギュラーにも程がある。何があったとC.C.に視線を向けると、あからさまに不愉快そうな顔で「断れ!」と言った。

「ルルーシュ、彼女を解放してあげよう。もう彼女は十分苦しんだ」

眉尻を下げ、悲痛な表情でそう訴えてくるスザクに、さっきまでの笑顔はなんだったのだろうと思いながらも、ルルーシュはスザクはやはり優しいな、敵として以外はあまり接点のなかったC.C.のために自分を犠牲にしようなんて・・・!と、思わず感動していた。

「ルルーシュ、断れ。ギアスの悲劇はもう必要ない。私はお前とならこの永劫の時を生きてもいいと今は思っているのだからな。おまえも嚮団の資料を見ただろう? 万が一、ロロという名の少年のようにのような欠陥があった場合、暴走した瞬間に枢木は死ぬぞ」

これは旗色が悪いと読んだC.C.は、暴走時の危険を思い出させることにした。
ギアス嚮団の資料には、欠陥品と書かれた能力者が多数存在していた。そして、彼らの大半は暴走前に自らのギアスで命を落としていた。現在唯一欠陥品で生き残っているロロはギアスが発動すると、その間自分の心臓を止めてしまう。つまり、万が一暴走したら心臓が停止し、死ぬということ。それに万が一<加速>や<転移><飛行>などのギアスが発言した場合<加速>なら、周りの時間が停止したような状況となるだろうし<転移>なら、一所にいられず、下手をすれば溶岩や地中、深海に移動してしまうかもしれない。<飛行>では大気圏を超える可能性もある。

「僕は構わないよ。コードを受け継げる可能性があるのなら、ルルーシュ、僕にギアスを頂戴」

真剣な表情でそう訴えてくるスザクに、そこまでしてC.C.を救いたいのかとルルーシュは驚き、スザクを見つめた。
そして、一つの答えを導き出した。

「・・・!そうか、スザクお前C.C.のことを・・・。すまないスザク気が付かなくて」
「え!?」

悲しげな表情でルルーシュが口にしたその言葉に、スザクは驚きの声を上げた。

「お前にはナナリーを任せたかったのだが」

お前の思いを考えていなかった、すまない。

「・・・は?」

ルルーシュの言った意味が理解できず、思わず考えてしまったC.C.も、声を上げる。

「そうだったんですねスーさん。私はてっきりルルーシュ様のことをと・・・」
「私もだ枢木卿、勘違いをしてすまなかった!・・・そうだったのか、貴公のその純真な思い、このジェレミア・ゴッドバルト全力で応援するぞ」

ギアスが暴走した時、私が全力でキャンセルし続けよう!

「え?え?ちょっとまって、違うから!」
「何も隠す必要はないだろう?だが、そうなるとお前はC.C.と共にいることはできなくなってしまう・・・」
「ならばルルーシュ様。私がC.C.からコードを受け継ぎましょう」
「ジェレミア・・・」
「ルルーシュ様を残し、いずれ私は死を迎える。それはとても不安でありました。ですが私が不死となれば、ルルーシュ様をお守りできる」

なんて素晴らしいアイディアだ!と、ジェレミアは満面の笑みでそう言い切った。

「だからやらんと言っているし、枢木など私の対象外だ!こんな二重人格裏切り属性の男など願い下げだ!」
「僕だってC.C.となんて御免だよ!」
「あのー、ジェレミア卿のギアスは暴走するのでしょうか?もしよろしければ私がC.C.様のコードをいただきますが。そうすればルルーシュ様にずっとお仕えすることもできますので」

家事全般だけではなく護衛としても優秀な咲世子のその言葉に、確かにジェレミアは人口ギアスで暴走するか不確定だし、だらしのないピザ女より咲世子のほうがいいなと、ついルルーシュは考え込んでしまった。
そのことに当然C.C.は敏感に反応し、スザクも参戦。
全力で暴走しますとジェレミア。
この中にアーニャとナナリーが加わるのはもう少し後の話。

19話